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神保町で一日働く。東京の本の街を仕事場にする

歩道沿いに本棚が並ぶ、神保町の古書店・矢口書店

打ち合わせがなくて、じっくり考える仕事だけの日があるなら、神保町で過ごしてみてください。

都心のたいていの場所から十分ほど。お金はほとんどかかりません。しかも、しんどい日のリモートワーカーに本当に必要なものが二つそろっています。長く座っていられる場所と、画面以外に眺めるものです。

神保町は東京の古書店街です。交差点から数ブロックのあいだに百五十軒ほどの書店が集まっていて、古書店がここまで固まっている場所は世界でもそうありません。

ただ、仕事の一日に向いているのは、本があるからだけではありません。街の流れがゆっくりしているからです。ここでは誰も急いでいません。

古い紙を売る街は、急かしようがない。そこに座っているうちに、こちらの気持ちもゆっくりになっていきます。

行き方と街の見取り図

夕方の光に照らされた神保町の並木道と、古書店の並び

神保町駅には、半蔵門線、都営新宿線、都営三田線の三路線が通っています。渋谷、新宿、大手町あたりからなら、たいていは乗り換えなしですぐです。

街の中心は神保町交差点と、東西に走る大きな靖国通り。本屋さんが並ぶのは通りの南側で、これには理由があります。店の庇が北を向くので、直射日光が本に当たらないんです。

それを知ると、街の見え方が少し変わります。ここは紙を守るようにできた通りなんですね。

東へ歩けば、御茶ノ水の楽器店街へ。西へ歩けば北の丸公園とお堀に出ます。歩きながら電話をするなら、都心でもかなり気持ちのいい場所です。

実際にどこでノートPCを開くか

正直に言うと、神保町はノートPCを広げる街というより、本を読む街です。そこに合わせたほうが、一日がうまく回ります。

このあたりには何十年も続く老舗の喫茶店があって、店の雰囲気をとても大事にしているところもあります。十数席の薄暗い喫茶店なら、ほかのお客さんがPCを使っているのが見えないかぎり、開かないほうが無難です。現金しか使えない老舗もあるので、現金も持っていきましょう。

うまくいくのは、一日を分けて使うやり方です。PCを使う時間はブックカフェやチェーンのコーヒー店で。そのあいだの休憩は昔ながらの喫茶店で、スマホはしまって、ノートを開く。

交差点の近くにあるブックハウスカフェは、わりとゆっくり座れるお店です。電源とテーブルが欲しいなら、靖国通り沿いに大手チェーンもあります。新刊書店の東京堂書店は1階から3階まで売り場があって、作業の合間にのぞくのにちょうどいい本屋さんです。

オンライン会議のために電源と静かな場所を確実に押さえたいなら、午前は大手町で働いて、お昼から神保町に移るほうが現実的です。地下鉄でひと駅です。

昔ながらの喫茶店で一時間

一日の予定は、この時間を中心に組むのがおすすめです。

神保町には、東京でも古いほうの喫茶店がいくつも残っています。木の壁に厚手のカップ、そして自分が生まれる前から家具に染み込んできたような匂いがする、そんなお店です。

山小屋みたいな、ちょっと雑多な内装のさぼうるは、訪れる人の多くが名前を知っている一軒。近くのラドリオは、日本でも早い時期にウインナーコーヒーを出したお店として知られています。ミロンガ・ヌオーバはタンゴが流れていて、輸入ビールの品ぞろえもなかなかです。

営業日や営業時間は変わることがあるので、どこかを目当てに午後を組むなら、先に確認しておいてください。日曜がお休みのお店も多く、混む時間には行列ができます。

こういうお店でリモートワーカーがもらえるのは、Wi-Fiではありません。自分の考えとじっくり向き合うしかない四十分です。いまどき、通信環境よりこっちのほうが手に入りにくいかもしれません。

昼は神保町名物のカレー

この街はカレーがとにかく充実していて、地元の人の熱の入れようもすごく、毎年のようにカレーのイベントまで開かれます。

とろっとした欧風カレーから、キリッとしたインド料理やネパール料理まで幅広く、お昼どきにはカウンターのお店の外まで列が伸びます。

食べるなら早めか遅め。だいたい正午から一時までは学生と会社員でいっぱいで、食べている時間より並んでいる時間のほうが長くなってしまいます。

がっつり食べる日は、そのあとに締め切りではなく散歩を入れておきましょう。神保町のカレーは、軽くはありません。

何を買って帰るか:古書と版画

神保町の路地で、店の外に並ぶ背の高い本棚を眺める人たち

日本語が読めなくても、買い物は十分楽しめます。読めたら、もちろんもっと楽しいですけどね。

北沢書店は、洋書や古典籍で昔から知られています。ほかのお店もかなり専門的で、映画ポスター、浮世絵、建築、登山、楽譜、古地図と、それぞれ得意分野がはっきりしています。

古い版画やちょっとした紙もの(エフェメラ)は、思ったより手ごろなことが多いです。しかも平らなので荷物にならない。スーツケース暮らしには、これが大事です。

晩秋に東京にいるなら、ちょうど神田古本まつりの時期です。数日間、靖国通りがまるごと屋外の本棚になります。東京の人混みの中では、かなり居心地のいいほうです。

一日の過ごし方の例

夜、明かりのともった神保町の古書店で本を探す客

うまくいきやすいのは、こんな流れです。その日いちばん重い仕事を決めたうえで十時ごろに着いて、電源のある席を確保。街がまだ静かなうちに、午前中で一気に進めます。

十一時半、混む前にカレー。

スマホをかばんにしまったまま一時間ほど本屋さんをめぐって、そのあと喫茶店でひと休み。行き詰まっていることを、手書きで書き出してみます。

夕方にもう一度テーブルに戻って、最後のひと仕事を片づける。暗くなってきたら、西へ歩いてお堀まで。

一日しっかり働いて、一日しっかり東京を味わって、それでもコワーキングのドロップイン料金より安く済みます。

よくある質問

神保町はオンライン会議に向いていますか

あまり向いていません。カフェは小さくて静かなので、通話するとまわりも自分も気まずくなります。北の丸公園のほうへ歩きながら話すか、大事な会議なら近くのデイユースルームやコワーキングを押さえておきましょう。

買い物に日本語は必要ですか

要りません。値段は書いてありますし、立ち読みしながら選ぶのが当たり前の街で、外国からのお客さんに慣れているお店も多いです。ちょっとした言葉と、指さしで伝える気持ちがあれば十分です。

いちばんいい時期や曜日は

平日の午前は落ち着いていて、お店もだいたい開いています。日曜は老舗を中心に休むお店が多いので、いまひとつです。十月下旬から十一月上旬は古本まつりがあって、人出もぐっと増えます。