商店街とは何か:東京の暮らしの困りごとが近所で片づく理由
東京に数週間以上滞在するなら、いちばん役に立つのは、近所の商店街を一度、何も買わずにゆっくり端から端まで歩いてみることです。
商店街というのは、数百メートルにわたって小さな個人商店が並ぶ通りのこと。アーケードがかかっていることも多く、たいていは駅から住宅街のほうへ伸びています。
東京の多くの街にひとつはあります。でも、駅前のチェーンスーパーに向かう途中で何ヶ月も素通りしていて、中に何があるのか知らないまま、という人は少なくありません。
これはもったいない話です。商店街では、アプリもアカウントも配送時間の指定もなしに、細かい生活の困りごとがかなりの割合で片づいてしまうからです。
そこに何があるのか
店の構成は場所によって違いますが、パターンはだいたい共通しています。
まず、八百屋、魚屋、肉屋、パン屋、小さな薬局。ここまではほぼどこにでもあります。
そして、あまり知られていないほうの店。靴の修理、合鍵、時計の電池交換、裾上げをしてくれる洋服のお直し、クリーニング、文房具店、百円ショップ、パンクをその場で直してくれる自転車屋。
さらに、英語のガイドにはまず載らない飲食店がいくつか。立ち食いそば、家族でやっているカレー屋、七十年代から続いている喫茶店。
商店街は、東京の中で「インターフェースではなく人」で動いている数少ない部分です。
八百屋に寄り道する価値
値段の差がいちばんはっきり出るのは、八百屋です。
商店街の個人商店は、旬の野菜や果物を、すぐ近くのスーパーよりも目に見えて安く売っていることがよくあります。回転が速いこと、そして冷蔵ケースにコストをかけていないことが大きい。
そのかわり、選べるのは「今あるもの」だけです。ほうれん草の束、玉ねぎのネット、その季節に採れすぎたもの。
少しでも自炊をするなら、これが週の過ごし方をいい方向に変えてくれます。意識しなくても、自然と旬のものを食べることになる。
夕方に値引きが始まる店も多いですが、タイミングは店ごとにまったく違います。
知られていない「直す」経済圏
ここが、いちばん驚かれる部分かもしれません。
普通なら買い替えてしまうようなものが、商店街では安く、しかも一時間もかからずに直ってしまうことがあります。
すり減った靴のかかと。壊れたジャケットのファスナー。海外で買って丈が合わないズボン。止まった腕時計。スーツケースのキャスター。バッグのストラップ。
料金はたいてい控えめで、作業も早い。ただ、特殊なものは一日二日預けることになります。
スーツケースひとつで暮らしている人にとって、これは思っている以上に大きい。直すほうが、買い替えるより荷物が増えません。
日本語がほとんどできなくても大丈夫
必要な言葉は、想像よりずっと少なくて済みます。
指をさして、数を指で示して、「これください」と言う。だいたいの買い物はこれで完結します。
値段はほぼ必ず書いてあるので、口頭の数字を聞き取れなくても困ることは少ないはずです。
小さな店は現金のほうがスムーズなこともあるので、キャッシュレスがかなり進んだ街とはいえ、数千円は持って出かけるのが無難です。
もうひとつ知っておくとよいのは、これがセルフサービスの空間ではないということ。八百屋や魚屋では、自分でかごに入れていくのではなく、欲しいものを人に伝える形が基本です。
無理のない範囲での、人とのつながり
一週間で商店街に友達ができることはありません。誰にとってもそうです。
ただ、同じ人から週に二回、二ヶ月ほど野菜を買い続けると、静かに何かが変わります。顔を覚えられる。「今日はこれがいいよ」と言われるようになる。ときどき、袋に何かがひとつ多く入っている。
リモートワーカーは、油断すると何日もビデオ会議以外で人と話さない生活になりがちです。
その中で、この三十秒のやりとりはちゃんと効きます。負担がなく、繰り返せて、そしてその街を「自分の街」に近づけてくれる。
どこかに所属していなくても、どこかで顔を覚えられていることはできます。
歩いてみる価値のある通り
とはいえ、まずはいちばん近い商店街から始めるのがいちばんです。
そのうえで、わざわざ足を運ぶ価値のある大きめの通りもいくつかあります。東京でも屈指の長さを持つ品川の戸越銀座、惣菜で知られる江東の砂町銀座、日暮里近くの小さくて写真映えのする谷中銀座、武蔵小山の長いアーケード、そして今も地元に根を張って賑わう北区の十条銀座。
行くなら夕方がおすすめです。食べ物の店がいちばん充実していて、通り全体が生きている時間帯です。
正直な注意点
すべての商店街が元気なわけではありません。
店主の高齢化と後継者不足、そして駅前チェーンへの客の流出で、通りの半分がシャッターという場所もあります。特に外側の区で目にしやすい傾向です。
営業時間も思っているより短いことが多く、個人商店は週に一日、平日に休むところがかなりあります。土曜に賑わっていた通りが、火曜の午後には半分閉まっている、ということも起こります。
値段もすべてが安いわけではありません。肉や魚は割安なことが多い一方で、パッケージ商品や日用品はドラッグストアやディスカウント店のほうが安いのが普通です。
商店街は得意なことに使って、それ以外はスーパーで済ませる。それがいちばん無理のない付き合い方だと思います。
よくある質問
現金は必要ですか
必ずではありませんが、持っていくことをおすすめします。大きめの店や最近改装した店はカードやIC決済に対応していることが多い一方、家族経営の小さな店は現金のみのこともあります。数千円あればたいてい足ります。
買わずに見て回るのは失礼ですか
通りを歩いて眺めるだけなら、まったく問題ありません。ただし八百屋などで商品を自分で手に取るのは避けたほうが無難なので、迷ったら店の人に声をかけるほうが安全です。
行くならいつがいいですか
夕方、夕食どきの少し前が狙い目です。食品の品揃えが一番よく、値引きも出はじめます。日曜の夜と平日の午後は静かで、閉まっている店も多くなります。