東京の地震への備え、ノマドのための実践ガイド
東京で感じる地震は、ほとんどが小さくて短いものです。立ち上がろうか迷っているうちに終わってしまう。建物が揺れて、ドアがきしんで、垂れ下がったケーブルがゆらゆらして、また部屋が静かになります。
この街はもともと地震を前提につくられていて、数週間もすれば小さな揺れは気にならなくなります。備えるのは、大地震におびえて暮らすためではありません。
小さな揺れをただの日常にしてしまうこと。そして地面が動く前に、本当に大事ないくつかの判断を済ませておくことです。
リモートで働き、身軽に移動している人の備えは、家族で一軒家に住む人とは少し違います。守る荷物は少なく、居場所も自由に変えられる。その一方で、近所のことをまだよく知らなかったり、避難の案内板をすらすら読めなかったり、まわりで自分だけ頼れる地元の知り合いがいなかったりします。
ありがたいことに、アプリをいくつかと小さなバッグひとつ、それに少しの習慣があれば、その差はすぐに埋まります。
備えのほとんどは、この街がもう済ませてくれています。あとは午後のひとときで追いつくだけです。
揺れ始めたら実際に何をするか
日本の公式の指針は、拍子抜けするほどシンプルです。いざというときに調べる時間はないので、覚えてしまってください。
揺れたら、まず身を守る。動くのはそのあとです。近くに丈夫な机やテーブルがあれば、その下へ。なければ窓や落ちてきそうな物から離れ、内側の壁際で身を低くして、腕かバッグで頭と首を守ります。
揺れが収まるまでは、その場を動かないでください。東京のふつうの地震でけがの原因になりやすいのは、建物の倒壊より、落ちてくる物や割れたガラスです。
揺れている最中に、あわてて外へ飛び出すのはやめましょう。揺れているあいだは、ガラスや看板が落ちてくる路上のほうが、いまどきの建物の中より危ないんです。
揺れが収まったら、室内ならドアか窓を開けておきます。枠がゆがんで閉じ込められるのを防ぐためです。火やガスを止めて、歩き出す前に靴を履いてください。地震のあとにいちばん多い危険は、割れたガラスです。
外で揺れ始めたら、塀や自動販売機、電線から離れて、頭を守ります。電車の中なら、手すりにつかまって待ちましょう。指示はちゃんと来ます。
大きな地震では電車が自動で止まりますし、駅員はまさにこういうときのための訓練を積んでいます。
スマホに届く緊急地震速報
日本の早期警報の仕組みは世界でもトップクラスで、何もインストールしていなくてもスマホに届きます。緊急速報メールとして携帯に一斉配信される全国の警報は、強い揺れが来る数秒から数十秒前に、聞き間違えようのない大きな音で鳴ることがあります。先に届く速くて弱い揺れと、あとから来る遅くて強い揺れの時間差を使っているんです。
数秒あれば、窓から離れる、机の下に入る、お湯を注ぐ手を止める、くらいはできます。初めて聞くとびっくりする音ですが、聞き逃さないようにわざとそうしてあります。ただ、鳴り方は端末や設定によって違うので、いつも必ず聞こえるとは思わないでください。
スマホの設定で、緊急速報がオンになっているか確かめておきましょう。海外のSIMやeSIM、海外で買った端末で受け取れるかどうかは、端末と設定、回線しだいです。次に紹介するSafety tipsアプリを必ず入れておいてほしいのは、このためです。
一度どんな音なのか調べておくと、本番で戸惑わずに済みます。
大きな地震のあとでモバイル通信がつながりにくくなったら、「00000JAPAN」という名前のWi-Fiを探してください。大規模な災害のとき、通信各社が公衆Wi-Fiをこの名前で無料開放していて、パスワードなしでつながります。通信は暗号化されていないので、大事なログインは控えましょう。無事を知らせるなら、NTTの災害用伝言板(web171.jp)が使えます。電話番号をキーに短いメッセージを残せて、英語の画面もあります。
小さな防災バッグを用意しておく
シェルターのような大げさな備えはいりません。玄関の近くに小さな持ち出しバッグがひとつあれば、つらい一晩が「ちょっと不便な一晩」くらいで済みます。
入れておくのは、数リットルの水と調理のいらない食べ物、スマホのモバイルバッテリーとケーブル、小さな懐中電灯かヘッドランプ、いつも飲んでいる薬、パスポートの紙のコピー(在留カードがあればそれも。短期滞在やデジタルノマドビザでは在留カードは交付されません)。それから小額紙幣の現金も少し。停電すると、カードの読み取り機やATMが止まることがあるからです。
実際にいちばん起こりやすいのは停電で、仕事に直接響くのもこれです。充電済みのモバイルバッテリー、大事な書類のオフラインのコピー、そしていちばん近いコンビニの場所。
どんなガジェットより、このあたりが役に立ちます。コンビニは品物の補充が早く、多少のことでは閉まりません。街が日常に戻りはじめた最初のしるしが、コンビニだったりします。
必要になる前に、建物と区を知っておく
東京には、名前が似ている二種類の場所があります。「避難場所」は、火事や落ちてくる物から逃れるための広い場所で、たいていは公園です。「避難所」は物資が備えてある学校などで、家に帰れない人がしばらく過ごす場所。どちらも決まった標識があって、区役所が一覧を出しています。落ち着いた日の午後に一度、近くの避難場所と避難所を探して、歩いて行く道順を確かめておいてください。
よく住まいを変えるなら、最寄り駅やおいしいコーヒーの店を探すのと一緒に、引っ越したらやることのひとつに入れてしまいましょう。
区役所は防災マップを出していて、住民向けの英語ガイドがあることも多いです。国や東京都も、多言語の防災ハンドブックを出しています。一度ざっと目を通しておくといいですよ。
東京都のよく知られた防災ガイドには英語版があって、これが本当に読みやすい。こういう資料があること、だいたいどこを見ればいいかを知っておくだけで、半分は備えができたようなものです。
今日入れておくと良いアプリ
無料のアプリをいくつか入れておけば、たいていのことはまかなえます。政府が関わるSafety tipsは、地震や災害の警報を英語をはじめ複数の言語で知らせてくれるアプリです。東京都の公式アプリ「東京都防災アプリ」も英語で使えて、都の防災ブックや防災マップ、チェックリストが入っています。
大きな災害のときは、NHK WORLDが英語で緊急放送を流します。三つ目には、近くの避難所を地図で見られる防災アプリを入れておくと便利です。
スマホのメモには、自分の住所を日本語で書いておきましょう。道を聞くときや助けを求めるとき、そのまま見せられます。無事かどうかを気にかけてくれる、母国の誰かの連絡先も一緒に。
覚えておきたい言葉は「地震」のひとつだけ。地震のさなかの館内放送や駅のアナウンスは、全部聞き取れなくても、たいてい落ち着いた口調で、何をすればいいかを伝えています。動じていない通勤客の流れについていけば、だいたいは間違いありません。
東京での備えは、道具よりも「何をするか先に決めておく」こと。決めてあれば、いざというとき体が勝手に動きます。
よくある質問
東京の地震は、日々の暮らしで危険ですか?
感じる地震のほとんどはごく小さく、被害は出ません。東京のいまの建物は、揺れを受け流して吸収するように設計されていますし、電車の自動停止からスマホの警報まで、まわりの仕組みは地震が多いことを前提にできています。
基本的な備えをきちんとしておけば、日常が地震のことでいっぱいになることなく、現実的なリスクには対応できます。
海外のスマホでも地震の警報は届きますか?
届くことは多いですが、確実ではありません。全国の緊急速報は日本の回線につながったスマホに配信されます。ただ、受け取れるかは端末や設定、回線によって変わるので、緊急速報がオンになっているか確かめておいてください。
Safety tipsアプリを入れておけば、英語の警報を確実に受け取れる予備になります。eSIMを使っているなら、なおさら入れておきましょう。
最初にやるべき、一番役に立つことは何ですか?
スマホの緊急速報をオンにする、英語対応の防災アプリをひとつ入れる、最寄りの指定避難場所を確かめる。この三つなら一時間もかかりません。早めの警報、情報、どこへ逃げるか。どれも、いざ何かが起きてからでは整えにくいものです。