Arrive & Settle

東京をアジアの拠点にするという選択

夜、きらめくアジアの街を見下ろす飛行機の窓からの眺め

ノマドになって最初の一〜二年、多くの人が同じことをします。安く過ごせる月を追いかけるんです。

ひとつの街から次の街へ。そのあとは、グループチャットで「Wi-Fiが速くて家賃が安い」と聞いた場所へ。アジアはたくさん見られても、手元にはほとんど何も積み上がりません。

なんとなく気持ちが散らかって、落ち着かない。その感じは、言葉にしてみるまで正体がよくわかりません。

そこで出てくるのが、周りからは逆に見える選択です。動くのをやめて、物価の高い街を拠点にする。安い街には、週末に遊びに行く。

ノマドの予算表ならまず候補から外れる東京は、これを試すのにちょうどいい街です。

動き続けていると、自由な気がします。でも実際は、多くの場合、写真映えするだけの消耗です。

移動し続けることの見えないコスト

移動にいくらかかっているか、ちゃんと計算する人はいません。明細に出てこないからです。

引っ越すたびに、仕事が一週間ぶん消えます。荷造り、フライト、SIMカード、部屋探し。それに、どこでコーヒーを買えばいいかもわからない最初の三日間。

これを毎月やっていたら、一年のうち数か月ぶんの仕事がいつの間にかなくなっています。家賃は安かった。

でも、終わった仕事はもっと少なかった。月の家賃のように目に見える数字ばかり削って、本当に収入につながる数字、つまり終えた仕事の量を見落としがちです。

東京は安くありません。でも暮らしが安定します。そして安定は、一泊の安さとは比べものにならないくらい、時間とともに効いてきます。

ちゃんとした机。かかりつけの医者。

二回で終わらずに通い続けるジム。名字まで知っている友だち。

仕事がしょっちゅう中断されるのではなく、ちゃんといいものになっていく。そのくらい根づいた毎日のリズム。

計画の前に、在留資格を確かめる

拠点にするには、まずそこに住み続けられることが前提です。ビザなしでの入国は「短期滞在」で、在留期間は国籍によって違いますが、多くは90日まで。入国のたびに審査官が判断するので、近くの国へ出国してはまた入る、というつなぎ方では暮らす計画になりません。

デジタルノマド向けの在留資格(特定活動)は6か月で、更新はできません。本人の年収1,000万円以上と、民間の医療保険への加入が条件です。対象になるのは、査証免除の対象で、なおかつ日本と租税条約を結んでいる国・地域の国籍を持つ人だけ。もう一度使えるのは、出国して6か月たってからです。どちらの方法でも在留カードは出ないので、住民登録も国民健康保険もできず、ふつうの賃貸契約も難しくなります。東京で長く暮らすなら、実際の働き方に合った在留資格が必要です。計画を立てる前に、出入国在留管理庁の案内で条件を確認してください。

ノマド向けの在留資格の条件を満たしているなら、拠点を持つという考え方とは意外と相性がいいです。ただ、再入国許可で短く出国したときにこの在留資格が保てるかどうかは、予定を組む前に出入国在留管理庁に確かめてください。保てるなら、6か月東京で暮らしながら、合間にソウルやバンコクへ出かけるのは制度の範囲内です。観光で出たり入ったりして6か月をつなぐのは、そうではありません。条件はデジタルノマドビザのガイドに、在留カードなしで借りられる住まいは滞在先のガイドにまとめています。

税金も考え方は同じです。日本の所得税法では、日本に生活の本拠(住所)がある人や、引き続き1年以上日本に住んでいる人は「居住者」になります。東京が本当に拠点になるなら、税金はかからないと思い込む前に、税理士に確認しておきましょう。定義は国税庁の案内に載っています。

なぜ東京なのか

安定した街なら、ほかにもあります。東京がただ住むだけの街で終わらず拠点になるのは、空港があるから。正確には、空港が二つあるからです。

羽田と成田からなら、東アジアや東南アジアのほとんどの都市へ、短いフライトで行けて便数も多い。ソウル、台北、香港なら長めの週末で十分です。バンコク、シンガポール、マニラも、ひと月の予定を崩さずに一週間ほどで行って帰ってこられます。

腰を落ち着けられる家と、どこへでも飛べる身軽さ。動き回っているだけでは、この組み合わせはなかなか手に入りません。

だから、暮らし方がひっくり返ります。安い街に住んでときどき高い街を訪ねるのではなく、高い街に住んで、安い街には行きたくて行く。

「もう一か月たったから」と次へ移るのではなく、本当に行きたくなったときに出かけます。

拠点があると、旅のしかたも変わる

意外なのはここからです。拠点を持つと、仕事だけでなく旅もよくなります。

どの街でも、家とオフィスと冒険を全部まかなおうとすると、結局どれも中途半端になります。でも家とオフィスを東京に任せてしまえば、バンコクへの旅はただの旅でいられる。三日間、ノートPCを開かない後ろめたさも、部屋探しもない。ホテル暮らしを生活だと思い込む必要もありません。

帰ってくるのは、ちゃんと自分の場所です。

観葉植物は枯れていないし、いつもの毎日がそのまま待っています。

旅の回数は減って、そのぶん楽しめる。たまにしか行かないから、旅が手配に追われる作業ではなく、ご褒美に戻ります。

旅は楽しい。ずっと引っ越し続けるのは、もはや仕事。後者をしながら、前者だと思い込んでしまいがちです。

この考え方が合わない人

もちろん、誰にでも合うやり方ではありません。

収入がまだ少ないなら、東京の生活費は本当に高い壁です。ほかの人にとって成り立つ計算が、あなたにも当てはまるとは限りません。本当に安い拠点にして、たまに奮発して旅に出るほうが、高い拠点から安い旅に出るより合うこともあります。

まだ駆け出しで、自分が何をする人で、誰からお金をもらうのかを探している途中なら、動き回ることがむしろ必要な経験かもしれません。拠点を持つやり方が報われるのは、自分の仕事がもうわかっていて、あとは自分で邪魔をするのをやめるだけ、という人です。

でも、長く旅を続けてきて、あの独特の散らかった疲れを感じているなら。何でも見てきたのに何も積み上がっていない、という感覚があるなら。必要なのは新しい街ではないのかもしれません。新しい街を探すのをやめることかもしれない。

安定していて、どこへでも出やすい拠点をひとつ選ぶ。そして、何かが育つまでそこにとどまる覚悟を持つことです。

まず腰を据えて、そこから旅に出る

ノマドの感覚では、自由は次のフライトの先にあります。でも、ときには逆なんです。

何度でも帰ってこられる、自分の家の扉。行きたい場所のほとんどへ、飛行機で数時間で行ける街にある扉です。

アジアを旅して回るのをやめて、東京に住み、アジアには「出かける」。同じ大陸、同じフライトなのに、暮らしはまったく違うものになります。