東京の医療と薬局、リモートワーカーのための基本
まず、安心してほしい話から。東京で医者にかかるのは、来る前に想像するよりずっと簡単です。医療の質も高く、ちょっとした体調不良が大ごとになることはめったにありません。
早めに片づけておきたいのは二つだけ。どうやって払うかと、言葉の壁をどう越えるかです。
つまずくのはたいていこの二つで、医療そのものではありません。あとは、どの扉を開ければいいかを知っているかどうかです。
東京には小さなクリニックがたくさんあって、これが地味にありがたいところです。内科も歯科も薬局も、たいてい歩いて行ける距離にあります。
予約なしでその日に診てもらうのも、ごく普通のこと。大きな病院が一つで何でも診るのではなく、小さな専門のクリニックがたくさんある仕組みなので、最初は戸惑うかもしれません。でも慣れると、これがなかなか早いんです。
熱が出てから慌てるより、元気なうちに「払い方」と「通訳」を決めておく。それだけで、この街はぐっと過ごしやすくなります。
保険は、具合が悪くなる前に整える
払い方は、日本でどういう立場で滞在しているかでまったく変わります。なんとかなるだろうで済ませず、はっきりさせておきましょう。
短期の滞在なら、受診のたびに窓口で全額を払い、できれば旅行保険やノマド向けの保険であとから請求する形になります。日本に来る前に保険の内容を読んで、何が対象になるのか、どんな書類が要るのかを確かめておいてください。
クリニックは基本的にその場での支払いを求めますし、保険への請求は本人がやるのが普通だからです。
ある程度長い在留資格を持っている場合は、日本の公的医療保険への加入が求められるのが一般的です。入ると治療費の大部分がカバーされ、残りを窓口で払う形になります。
細かいルールや自己負担の割合はビザや自治体によって変わります。ここに書いた内容は決まった数字ではなく、区役所などで自分の状況を確かめるきっかけにしてください。
デジタルノマドビザ(特定活動、最長6か月)で来ている場合は、公的保険には入れません。在留カードが出ないうえ、出入国在留管理庁も日本の公的医療保険には加入できないと明記しています。そのためビザの条件として、けがや病気の治療に1,000万円以上を補償する民間保険への加入が求められています。実際に受診したら、その保険で請求するつもりで準備しておきましょう。
大まかな考え方はシンプルです。
日本に住む人は公的な保険に入る。短期で来ている人は民間の保険に頼る。そして、母国の保険証がそのまま使えるとは思わないこと。
どの立場でも、ここで使える支払い手段を持って、保険の情報をすぐ見せられるようにして、領収書は取っておきましょう。クリニックも薬局も明細付きの領収書を当たり前に出してくれるので、あとで請求するのがぐっと楽になります。
クリニックと、英語が通じる医師の探し方
ふだんの体調不良なら、まずは病院の救急ではなく、近くのクリニックへ。なかなか治らない風邪、お腹の不調、肌のトラブル、軽いねんざ。こういう普通の症状はクリニックで診てもらえますし、多くのノマドが慣れている国と比べれば、早くて安く済みます。
病院は、紹介されたときや症状が重いとき、本当に緊急のときに行くところです。大学病院や、一般病床が200床以上ある多くの病院では、紹介状なしで初めてかかると、救急の場合を除いて7,000円以上の特別料金が上乗せされます。先にクリニックへ行けば、これはかかりません。
本当の壁は言葉ですが、乗り越えられない壁ではありません。覚えておく電話番号は二つで足ります。
東京都の「ひまわり」は、外国語で診てもらえる医療機関や、日本の医療の仕組みを電話で教えてくれます(03-5285-8181、英語・中国語・韓国語・タイ語・スペイン語、毎日9時〜20時)。NPOのAMDA国際医療情報センターも、無料の多言語電話相談(0120-339-266)をやっています。何曜日にどの言語に対応しているかは、ウェブサイトで確かめてから電話してください。
病院の救急外来で言葉が通じないときは、東京都の救急通訳サービスに登録している病院なら、英語など9言語の電話通訳を無料で使えます。ただ、これは病院側が使う仕組みで、患者が自分でかける番号ではありません。それ以外の場面では、翻訳アプリを開いておくだけで済ませているノマドも多いですし、お医者さんの側も慣れています。
症状は前もって書き出して、その文章ごと翻訳しておくのがおすすめです。窓口でとっさに単語をひねり出すより、ずっと伝わります。
元気なうちに、滞在先の近くで内科と歯科を一つずつ見つけて、診療時間を保存し、予約なしで行けるかどうかもメモしておくと安心です。熱が出てから調べるより、頭がすっきりしているうちに調べるほうがずっと楽ですから。
「薬局」と「ドラッグストア」は別物
ここは来たばかりの人がよく混乱するので、はっきり分けておきます。診察のあとに行く調剤薬局は、お医者さんが出した処方箋の薬を出してくれるところで、クリニックのすぐ隣にあることが多いです。
処方箋を渡して少し待つと、薬剤師さんが薬について説明してくれます。説明を印刷した紙をくれることもあります。
もう一つがドラッグストア。あちこちにある、明るいチェーン店です。市販薬、日用品、化粧品に、お菓子や生活雑貨まで売っています。
頭痛、風邪、花粉症、胃のむかつきくらいなら、まずはドラッグストアへ。処方箋は要りません。店員さんが売り場を教えてくれることも多いですし、パッケージに英語やわかりやすいマークが付いていることもよくあります。
一つ、本当に気をつけてほしいことがあります。ほかの国ではどこでも買えるような薬でも、日本では制限があったり、持ち込めなかったりするものがあるんです。
自分で使う分なら、処方薬は1か月分まで、市販薬は2か月分までは手続きなしで持ち込めます。それより多い場合は、日本に来る前にオンラインで「輸入確認証」を取って、税関で見せます。
麻薬、向精神薬、覚醒剤原料(プソイドエフェドリンやリスデキサンフェタミンなど)は、別に事前の許可が要るか、量の上限があります。アデロールのようにアンフェタミンを含むADHDの薬は、処方があっても持ち込めません。
知らずに持ち込むと、空港で本当に困ったことになります。母国の棚に普通に並んでいる薬でも、そのまま持ってこられるとは思わないでください。
手元に置いておきたい常備薬
少し準備しておくだけで、軽い体調不良の面倒はほとんどなくなります。家にちょっとした常備薬があれば、夜中に風邪をひいても、翻訳アプリ片手に誰かと話す必要はありません。
痛み止め、胃腸薬、のど飴、絆創膏、それに自分にとって欠かせないもの。これだけあれば、よくある場面はだいたい乗り切れます。どれもドラッグストアで簡単に買えますし、棚にあれば、具合が悪くなった最初のつらい一時間を、探し回らずに休むことに使えます。
いつも飲んでいる薬があるなら、パッケージと一般名(成分名)の写真をスマホに保存しておきましょう。似た薬を探すとき、薬剤師さんがぐっと探しやすくなります。
よくある質問
予約なしでクリニックに入っても大丈夫ですか。 たいていの小さなクリニックなら大丈夫です。予約なしで行くのはごく普通のことです。
ただ、待つことはあります。予約をお願いしている、あるいは予約が必須のクリニックや専門医もあるので、ウェブサイトを見るか、一本電話しておくと時間の無駄が減ります。
開いてすぐの時間に行くと、待ち時間は短めです。
本当の緊急時はどうすればいいですか。 救急車は119番です。英語で通報しても、東京消防庁が通訳を通して対応してくれます。
救急車を呼ぶほどか迷うときは、東京消防庁の救急相談センター「#7119」に電話すれば、今すぐ病院に行くべきか、朝まで待ってクリニックでいいかを24時間教えてくれます(#7119にかからない電話からは03-3212-2323)。JNTOの「Japan Visitor Hotline」(050-3816-2787、24時間、英語・中国語・韓国語)も、病気やけがのときに相談できます。
母国の薬は日本に持ち込めますか。 いつでも大丈夫、というわけではありません。
普通の処方薬なら1か月分までは手続きなしで持ち込めますが、それより多いなら、日本に来る前に「輸入確認証」を取っておく必要があります。規制のある成分は別の許可が要るか、そもそも持ち込めません。自分の薬を厚生労働省の案内で確かめて、処方箋の写しも持ってきましょう。早めに確認しておけば、税関で嫌な思いをせずに済みます。